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イギリス北端のオークニー諸島でエネルギー革命が起きている

まるでファンタジーの世界だ。風、波、潮の力によるエネルギーを使って水から抽出された燃料が、海に浮かぶ巨大な船舶を動かすというのだから。ドラマチックだが、信じがたく聞こえる。しかし、この壮大で環境に優しい構想は、まもなく現実のものとなる可能性がある。イギリスのスコットランド沖にあるオークニー諸島で進行中の、驚くべきテクノロジー改革のおかげだ。

オークニー諸島は、イギリス本土の北端部から16kmほど沖合にある。人が住む20の島と、点在する無人の岩礁や小島からなるこの場所が、発電革命の中心地だ。オークニー諸島はかつて、石炭とガスを燃やして発生させた電力に完全に依存しており、その電力は、海底に敷設されたケーブルを通じて、スコットランド本土から島に送られていた。しかしいまや、オークニー諸島のあちこちに風力タービンが立ち並び、排ガスを出すことなく、自力で電力を賄っている。発電量があまりにも多くて、使い切ることができないほどだ。

地元自治体が所有する風力タービンでつくられた電力は、島の人々に供給されている。島民は、排出ガスを出さない電気自動車を運転し、周辺の海域や海底では、波力や潮力エネルギーを電力に変換する装置が試験運用されている。

地元で運航されているカーフェリーは近い将来、ディーゼル燃料の使用をやめ、水素燃料で動くようになるだろう。その水素は、オークニー諸島の風力、波力、潮力を使ったエネルギーで、水を電解して製造される。

「世界中のあちこちで、再生可能エネルギーを使った未来の低炭素社会が話題になっていますが、オークニー諸島にはその未来がほかより早く訪れようとしています」と話すのは、『Energy at the End of the World: An Orkney Islands Saga(最果ての地で起きるエネルギー革命:オークニー諸島の挑戦)』の著者で民族誌を研究する、ローラ・ワッツだ。20191月にマサチューセッツ工科大学出版局から刊行された本書では、オークニー諸島の人々が、本土からの支援もほとんど得られない状況で、いかに大きな困難に立ち向かい、自力で低炭素の未来型社会を築き上げてきたかという、興味深いストーリーが語られている。

この話が驚きとともに受け止められるかもしれないことは、エジンバラ大学地球科学部の上級講師でもあるワッツ自身も理解している。筆者が1月初めに会ったワッツはこう語った。「次世代技術やイノベーションと聞くと、人はたいてい、大都市で開発されるものだと思い込みます。ところが、この再生エネルギー革命は、イギリス最北端に位置する場所で起きているのです」

そういった知的革命が、ロンドンよりも北極圏に近い場所で起きうるなど、思いもよらないかもしれない。しかし、実のところオークニー諸島は、南へとアイデアを広めるという点については、長い歴史を持っている。オークニー諸島で最大のメインランド島にある遺跡「ネス・オブ・ブロッガー」(「ブロッガー岬」の意)の発掘調査を行ったところ、新石器時代に建てられた儀式用のストーンサークル(環状列石)が見つかった。オークニーにかつて、栄華を極めた文化が存在していたことが明らかになったのだ。

その文化は、ストーンヘンジやエーヴベリーなど、イギリス南部で巨石を使ったストーンサークルが建てられた時代よりもはるかに前のことだとされている。新石器時代を特徴づける、溝の入った土器とストーンサークルは、オークニー諸島で生まれ、そこから古代のイギリス全土に広まっていったのだ。

発掘調査を指揮するニック・カードは、「新石器時代について考えるときは、イギリスの地図を逆さまにして、南部を中心とした考え方を払拭する必要がある」と話す。

それと同じプロセスがいま再び起こっている、とワッツは言う。オークニー諸島は、炭素を排出しない未来に向けたイギリスの取り組みをリードする場所だ。そして、この革命に絶対に欠かすことができなかった重大な要因に、風力を確かな電力源へと変えた島民たちの姿勢がある。

オークニー諸島は海抜が低く、大西洋と北海の両方に面しているため、1年を通して強烈な風が吹き荒れている。激しい風と雨が容赦なく島に襲いかかり、農作業小屋は倒壊し、屋根瓦は引きはがされ、海岸線がひと晩で何メートルもえぐり去られるのだ。島では傘は必要ない。ワッツはある島民から、デモ隊などを取り締まるために警官が使う盾(ライオット・シールド)が必要だと言われたことがあるという。ワッツはここ10年間、定期的にオークニーに足を運んでいる。

「オークニーでは、風とか、風が強いといった定義は覆されます」とワッツ。「風はもはや、ちょっとした鬱陶しさを感じる自然現象ではありません。あまりの強さに、学校が閉鎖されるほどです」

その風はさらに、700基を超える小型風力タービンを回転させるほどの威力を持ち、島民の生活を変えるうえできわめて重要な役割を果たしてきた。とはいえ、変化を遂げるまでの道のりは、決して平たんではなかった。

イギリスは1980年代初め、風力で電気をおこすタービンを開発しようとして、メインランド島バーガー・ヒルにテストサイトをつくり、実験を始めた。「ところが、イギリスは実験を打ち切ってしまいました。一方のデンマークとドイツは実験を進め、風力タービン技術の開発に成功しましたが、それは政府が投資をしたからです」とワッツは指摘する。「(デンマークやドイツの)政府は膨大な資金を投じましたが、イギリス政府はそうしませんでした。風力発電業界が生まれていたかもしれないのに、イギリスは投資をしなかったのです」

しかし、オークニー諸島における風力タービンは、この島に深い影響をもたらした。島民たちが、生み出された電力を大いに活用したのだ。「オークニー諸島はかつて、島外から電力を買っていましたが、現在は、年間平均で必要な電力量の120%を発電しています」とワッツは述べる。「というわけで、有り余るほどのエネルギーを手にしたのですが、問題は、その余剰電力をどうしたらいいのかということです」

ワッツは、島民が取りうる3つの選択肢を説明してくれた。1つめは、新たに海底ケーブルを敷設して、余った再生可能エネルギーを本土へ売ること。2つめは、島での電力消費量を増やすこと。3つめは、余った再生可能エネルギーを水素などの燃料に変えて貯蔵すること。

彼らが正しい決断を下せば、イギリス全体に多大な影響を与える可能性がある。イギリスはいま、オークニー諸島の例にならって、低炭素型の未来を受け入れようとしているからだ。

「本土とオークニー諸島の間に、別のケーブルを敷設して双方を連結することを考えてみると、それは島民だけではできない事業です。あまりにもお金がかかりすぎます」とワッツは述べる。「そうした類いの事業は、政府からの支援が必要です。新たなケーブル敷設をめぐっては、何年にもわたって島の人々が検討と延期を繰り返してきましたが、その結果、島民は以前よりも、ずっと自立せざるを得なくなっています」

一方で、電気自動車を運転する島民が増え続けていることで、電力の新たな使い道が見つかりつつある。「ひと晩2ポンド(約285円)を払って車を充電するか、高いお金を払ってディーゼル車やガソリン車を買うかのいずれかだとすれば、考えるまでもないことです。さらに、電気自動車の大きな欠点は、だいたい160kmを走行するたびに充電しなければならないことですが、オークニー諸島ではそれは問題にはなりません。島の反対側まで走っても、せいぜい45kmしかないところばかりですから」

残る問題は、エネルギーの貯蔵だ。これは、再生可能エネルギーを扱う上での特有の課題である。風力タービンが発生させた電力をただ集めて、風が弱まったり無風になったりしたときに使えばいいというものではない。というのも、いまのところはエネルギーを確実に貯蔵できる方法が見つかっていないためだ。これこそ、オークニー諸島の人々の前に立ちはだかる基本的な壁となっている。

オークニー諸島のひとつ、エディ島では、再生可能エネルギー源によって動く「電解装置」と呼ばれる機械を使い、水を水素と酸素という2つの元素成分に分解している。水素は貯蔵できるので、あとで必要に応じて燃やして、発電に用いる。すでに、地元で製造された水素で動く燃料電池が発電のために使われ、オークニー諸島の埠頭に停泊している船舶に電力を提供している。

とはいえ、これはまだまだ序の口で、水素燃料の用途を広げるための計画はすでに進んでいる。たとえば、島々を結ぶ船舶。老朽化した船舶9隻の代わりに就航する新世代フェリーには、水素燃料が使われる見込みだ。それらの船舶を水素燃料で運航すれば、オークニー諸島はディーゼル燃料の消費を大幅に削減できる。

水素燃料を使った世界初の海上カーフェリーは、2021年に進水の予定だ。海洋エネルギー開発に関する世界最大規模の実証実験設備を保有する民間研究機関、欧州海洋エネルギーセンターEMEC)を率いるニール・カーモードは、201812月に『フィナンシャル・タイムズ』紙に対し、「水素をフェリーの燃料に使うことができれば、炭素に依存した世界に新たな風穴を開けることができると気がついた」と述べた。

2003年に設立されたEMECは、オークニー諸島の第2の都市ストロムネスに拠点を置いており、オークニーが電力供給という分野で変化を遂げるうえで立役者のひとつとなった。同機関の実験設備は、波力ならびに潮力エネルギー生成装置のプロトタイプを簡単に実験できる「プラグ&プレイ」(接続してすぐ使える)のテストサイトとして機能している。

そうしたプロトタイプのひとつが、EMEC設立から1年後に完成した、全長120mの巨大な波力発電装置「ペラミス(Pelamis)」だ。ペラミスは、「ナショナル・グリッド(National Grid)」(英国の送電およびガス供給事業者)の送電網に電力を供給した世界初の波力発電装置となった。それ以後もEMECでは、さまざまなプロトタイプの性能実験が行なわれている。

海の力を利用する発電機には、風力タービンと比べて優利な点がある。風力タービンのエネルギー源である風は、潮力よりもはるかに予測がしにくいのだ。一方で、ものすごい速さで潮が流れる深海に設置した発電機の場合は、不具合が起きたときの修理が容易ではない。

7ノット(時速約13km)で潮が流れる海底に発電機を固定する方法が書かれた書物などありません」とワッツは述べる。「現場に行って、自力で何とかしなくてはならない。オークニーの人々は、いままで15年ものあいだ、そうやってきました。オークニーでは、海とエネルギーの話が日常的な話題です」

「ところが、彼らはそれをごくわずかな予算でやっています。イギリス政府が波力ならびに潮力発電の業界を発展させ、風力発電の開発を中止してしまった30年分の遅れを取り戻そうという気があるなら、しかるべきところへさらに多額の資金を投じる必要があります。また、そうしたメッセージを、きわめて明確に伝える必要があります」

とはいえ、中央省庁が口を挟めば、物事は必ずしも順調には進まない。イギリス周辺海域の資産管理を行う政府系特殊法人「クラウン・エステート(Crown Estate)」は2009年、オークニー諸島周辺の管理海域を、波力や潮力発電の開発を目指す企業各社にリースすることを決定した。「そういったケースは世界で初めてでした」とワッツは言う。

問題は、クラウン・エステートがリースした海域の多くが、発電装置を設置するのに適しているだけでなく、ロブスターやカニの漁場でもあった点だ。「漁師どころか、オークニーの誰にも相談がありませんでした」とワッツは続ける。そしてあろうことか、クラウン・エステートは何の協議もせずに、近海漁業区域のかなりの部分を閉鎖してしまったのだ。「オークニーの人々が生計を立てるうえで欠かせない漁場は、警告も議論も交渉もなく、脅かされることとなりました」

現在、クラウン・エステートは状況の改善に努めており、エステート側と漁師側で、より綿密な話し合いが進められている。それでもこうした話は、新技術と、いまだにきわめて重要な既存業界を調整することが、いかに困難であるかを示している。

しかしワッツは、オークニー諸島の海を舞台にしたエネルギー改革のストーリーは、別の意味でも重要だと話す。このストーリーは期待の持てる結末を約束しており、だからこそ話すべき価値があるのだという。私たちの未来への展望は、いまのところ、非常に暗い。「絶望しかない、とまではいかないかもしれないが、気候変動によって地球が脅威にさらされていることを思うと、やはり希望はあまり持てません。オークニー諸島の素晴らしいところは、それを何とかしようと取り組んでいることです。それこそが、大きな励みになります」

この記事は、The Guardianのロビン・マッキーが執筆し、NewsCredパブリッシャーネットワークを通じてライセンスされたものです。ライセンスに関するお問い合わせはlegal@newscred.comまでお願いいたします。

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