TANAKAのとりくみ

田中貴金属の環境への取り組み 日経BP社「Green Device Magazine」

貴金属の技術で環境配慮材料を実現

貴金属の技術で環境配慮材料を実現 有害物質を減らし、水の環境負荷軽減にも貢献

(2009年 秋)

創業から124年の歴史を誇る田中貴金属は、これまで貴金属材料とその応用技術を提供することで一貫して先端産業用製品の進化を支えてきた。いまや世界全体で重視する機運が高まっている環境・エネルギーの分野に向けた取り組みにも、いち早く着手している。その一つが、「環境配慮材料の開発」である。その具体的な動きなどについて、同社取締役技術開発部門長の田中秀昌と環境配慮材料にかかわる同社社員4人に聞いた。

座談会模様

座談会模様

田中 秀昌 田中貴金属工業 取締役 技術開発部門長

田中 秀昌
田中貴金属工業
取締役 技術開発部門長

環境配慮材料の開発

―「環境配慮材料」とは。

田中

環境配慮材料とは、大きくは環境に負荷を与えない物質を使った材料を指しています。「環境配慮材料の開発」は、「新エネルギー」「資源循環」「環境浄化」とともに、私たちの環境・エネルギー事業における重点課題の一つです(図1)。私たちは、既存の材料から環境に有害な物質をなくし、その代替となる材料の開発を進めるほか、環境負荷の軽減に役立つ様々な生成機器に用いる材料の開発にも取り組む考えです。ここで、材料そのものが環境に負荷を与えないのはもちろんですが、材料の製造工程や開発の工程においても環境に負荷を与えないことが前提となります。

図1 田中貴金属グループの環境・エネルギー事業の四つの柱

図1 田中貴金属グループの環境・エネルギー事業の四つの柱 環境配慮材料の開発 環境浄化 新エネルギー 資源循環

スイッチやリレーからカドミウムを排除

― 具体的な環境配慮材料の例を教えて下さい。

田中

図2 Cdフリー接点の外観図2 Cdフリー接点の外観 有害物質を含まない材料の例の一つは、中高領域の比較的大きな電流を扱う回路の開閉に用いられるリレーと呼ばれる部品の接点材料です(図2)。これまで中高電流領域の交流回路用開閉リレーの接点にはAgCdO(銀酸化カドミウム)が使われていました。毒性が問題視されているCd(カドミウム)を含むAgCdOが使われているのは、開閉時に発生するアーク放電やジュール熱による溶着などによって、接点の開離ができなくなるという故障の対策に有効だったからです。CdO(酸化カドミウム)は昇華などの特性でアーク放電、ジュール熱の発生を抑制することができました。
ところが、我が国では公害病の一つがCdに起因することが明らかに
されています。最近では欧州の「RoHS 指令」で、産業用製品に使用を禁ずる規制対象物質の一つにあげられたことから、世界各地にCdを規制する動きが拡がりました。これらを期に、電子機器におけるCdフリー化が急務となり、最近では世界各国の企業が代替材料の開発に取り組んでいます。弊社におきましても、約20 年前からCdフリー材料の開発に取り組み、お客様のご要望に的確に応えられるものづくりに努めてまいりました。

従来品を凌駕する特性を実現

― 新エネルギーの分野における貴金属材料の役割を具体的に教えて下さい。

真田

Cdフリーの接点材料を開発するうえで課題となったのは、溶着による接点の開離不能障害の防止と、接触抵抗の安定化といった互いに相反関係にある問題を同時に解決することでした。従来のAgCdO 接点を凌駕する特性を備えた材料を実現することを目標に、SnO2(酸化錫)、In2O3(酸化インジウム)など銀酸化物系合金材料を中心に検討を開始。現在では、目標通りの性能を備えた材料を実現し、ほぼラインアップが完了しています。具体的には、多様化している電気的負荷条件の、それぞれに対応できるように、様々な種類の代替材料を開発しました(表1)。
特に最近では、車載用電装機器の自動化が進むとともに、その制御に使うリレーの需要が急速に増大しています。車載用リレーは、直流回路に用いられますが、上記代替材料の酸化物量を調整すると、車載用に適用できることが分かりました。このおかげで、リレー向け接点材料の市場が大きく伸びています。

真田 荘紀 田中貴金属工業 AuAg系事業部

真田 荘紀
田中貴金属工業
AuAg系事業部

表1 Cdフリー接点の材料構成と主用途

表1 Cdフリー接点の材料構成と主用途

モーター向けCdフリー材料も開発

吉田

Cdはリレー・スイッチの他、DVDプレーヤやゲーム機の駆動用モーター、携帯電話のバイブレータ用小型モーターなどに組み込まれているコミューテータの摺動接点にも用いられておりました。モーターの軸とともに回転するコミュテータと、固定されたブラシが接するところです。モーターが回転するときにブラシとコミューテータのそれぞれで機械的摩耗が進行すると同時に、二つの間で生じるアーク放電によっても、それぞれが消耗します。
こうした問題を軽減するために、ブラシには主に耐摩耗性に優れるAg(銀)-Pd(パラジウム)合金が使用されております。ところが従来、コミューテータには、放電の抑制に効果があるCdを含みAg-Pd合金ブラシとの相性がよいAg-Cd合金あるいはAg-Cu(銅)-Cd合金が使われていたのです。そこで私たちは、大手モーター・メーカーとの共同開発により、比較的安価に入手が可能であるCuとNi(ニッケル)を含んだAg-Cu-Ni合金をベースにした新たなCdフリー合金を開発しました。合金組成の最適化を図るとともに、微量元素を添加することによって、材料コストを抑えながら、性能では従来のCd含有合金を凌駕しています。

吉田 一晴 田中貴金属工業 AuAg系事業部

吉田 一晴
田中貴金属工業
AuAg系事業部

田中

中高電流用リレーおよびスイッチ用の接点材料の世界市場で、弊社は約40%のシェアをもっております。すでに、その約95%をCdフリー材料に切り替えました。さらに2011年3月までには、まず、国内市場に向けて提供している接点のすべてをCdフリー材料に置き換える予定です。小型モーター用摺動接点材料の市場でも、弊社は50%以上と高いシェアをもっています。この摺動接点材料については、すでに約1年前にCdフリーの代替材料への切り替えを完了しています。今後も、環境に有害な添加物質の代替化に大きく貢献する考えです。

電気分解で環境に優しい電解水を生成

― 環境負荷軽減物質の生成に利用する材料にも取り組んでおられます。
  その具体的な例を教えて下さい。

田中

その例の一つは環境に優しい電解水を生成するために使う電気分解用電極です。水道水を電気分解すると、陰極側の水が強アルカリ性を示します。これが、アルカリイオン水と呼ばれる水です。水道水の代わりに食塩水を電気分解すると、さらに強いアルカリ性を備えた強アルカリイオン水を生成することができます。この強アルカリイオン水は高い洗浄能力を発揮し、環境への負荷を大幅に軽減します。この電極材料として、基材に耐食性素材のTi(チタン)を用い、その表面にPt(白金)またはIr(イリジウム)などをめっきした電極が用られ、間接的に環境負荷軽減に貢献しております。

西尾

従来、半導体などの洗浄工程ではトルエンなどの有機溶媒が使われていましたが、人体に有害であることから、ある時期より使用が禁止されました。その後、界面活性剤による洗浄が主流となりました。ところが、界面活性剤を含む洗浄液では、洗浄後にリンス処理が必要です。このためどうしても廃液が増えてしまいます。こうした問題を解決できるのが強アルカリイオン水です。この強アルカリイオン水は、油脂性の汚れに対して高い洗浄能力が得られます。その上、発泡性がないので、リンス処理が省けます。これによって廃液量を大幅に減らすことができ、環境への負荷を大幅に軽減できることとなります。
また、水道水や食塩水を電気分解したとき、陽極側に酸性水が生成しますが、この酸性水も洗浄能力があります。家庭では食器や野菜の洗浄に利用できます。高い殺菌能力を備えているので、医療機器の洗浄にも適しています。酸性水で、従来使用していた化学洗浄剤に代替することができれば、環境負荷を軽減することができます。
なお、電気分解などで劣化した電極は、Ptを再コーティングすることにより、電極として再生させます。これは、環境・エネルギー分野の4つの柱の一つ「資源循環」施策にもつながります。

西尾 一郎 田中貴金属工業 化学事業部

西尾 一郎
田中貴金属工業
化学事業部

海水の環境維持に貢献

田中

水道水や食塩水の電気分解の技術は、工場や船舶からの廃液による海水汚染に対する対策や海水施設の防汚対策などにも役立てることができます。弊社では、この海水の環境維持が大きな課題の一つとして位置づけ、各種の用途に適した電極材料の開発に取り組んでいるところです。

松井

松井 雄司 田中貴金属工業 化学事業部

松井 雄司
田中貴金属工業
化学事業部

図3 不溶性電極

図3 不溶性電極

海水の環境維持対策の一つに、石油輸送用タンカーのバラスト水処理があります。タンカーのバラスト水とは、石油を輸送した帰途、喫水線を保つために積み込む海水のことです。輸送先で積み込んだバラスト水は帰港後排出しますが、バラスト水には輸送先の海生生物が含まれています。無闇に排出すると海洋の生態系を破壊することになりかねません。こうした問題はIMO(国際海事機関)会議で規制が検討され、当面、沿岸から200 海里離れた海域でバラスト水を交換することが義務付けられております。しかし、2009 年には新造船にバラスト水処理装置を搭載することが、さらに2016 年には全面的に義務化することが予定され、技術の確立が急務になっております。
バラスト水処理方法は、すでにいくつか提案されています。その一つに電気分解処理方式があります。海水の電気分解によって制菌作用のある電解水を生成し、海生生物を処理する方法です。私たちは、こうした処理装置に向けた電極材料にチタン白金系電極などの不要性電極(図3)が適用できるよう、鋭意開発を進めているところです。

田中

貴金属は、まだまだ様々な可能性を秘めています。世界全体の大きな問題として浮上してきた地球環境問題の解決に、貴金属およびその応用技術が役立つことは多いはずです。これまでと同様に社会の発展に貢献できるよう、貴金属の可能性を追究しながら様々な分野に向けた環境配慮材料を、これからも提供し続けたいと思っております。

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